ソン・ガンホ インタビュー
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ソン・ガンホにとって、今年は特別な意味を持つ。デビュー20周年なのだ。1966年の映画『豚が井戸に落ちた日』で映画界にデビューしてから20年、休む間もなく走ってきた。今年は映画『密偵』で主役を演じ、累積観客数1億人を突破するという栄誉を手にした。観客からのご褒美だ。ただの人気俳優を超え、信頼を集めているといえるだろう。
ソン・ガンホにとって2016年はどんな年だったのだろうか。答えづらい質問にもいつも通り、慎重に言葉を選びながら応じてくれた。
―2016年はソン・ガンホさんにとって映画界デビュー20周年の年です。お気持ちは?どんな一年でしたか?
「2016年は映画『密偵』が公開され、来年公開される映画『タクシー運転手』を撮影しました。『密偵』は日本統治時代に独立運動を行った人々の生き様を描いたもので、『タクシー運転手』は近代の悲劇を描いたものです。両作品ともエンターテインメント性とは別の面で、映画史に名を残す作品だと思います。2016年はその2つの作品制作に参加できた、非常に価値ある一年でした」
(ソン・ガンホは“20周年”という言葉に大笑いした。嬉しくも感慨深くも見えた。ただ改まって感想を述べるのは照れくさいのか、「適当に書いてください…」と笑った。ちなみに彼が今年撮影した『タクシー運転手』は、光州事件(※)を取材しようとするドイツ人記者を乗せて光州まで行ったタクシー運転手の物語で、実話を基にした映画。近現代史の悲劇とはこれのことだ)
※1980年5月18日から27日にかけて全羅南道(チョルラナムド)の光州市を中心に起きた、民主化を要求する民衆の蜂起。
―『密偵』のイ・ジョンチュルは、日本統治時代を扱ったこれまでの作品からは見られないキャラクターでした。気持ちを演技だけで伝えようとしたキャラクターというか。明確な答えを持って臨んだのか、それとも試行錯誤しつつ作り上げていったのでしょうか。キャラクターの出来上がりには満足していますか?
「これまであの時代の人物を扱った作品は多数ありましたが、ほとんどが決まった答えを持つ、規格化された物語でした。ですが『密偵』のイ・ジョンチュルは、歴史の中でも曖昧な視点を持つ人物(※)です。そんな人物を演じるのに答えがあっては、かえって矛盾してしまいます。正解がない状態で様々なことを試し、構築し、徐々にキャラクターを作っていきました。監督やスタッフ、共演者たちが力を合わせて行いました。大変な作業でしたが、だからこそやり甲斐を感じました」
※イ・ジョンチュルは朝鮮総督府警察官。日本警察として治安維持活動にあたった人物。
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